理事長メッセージ|社会福祉法人 県央福祉会

理事長メッセージ

 

マイノリティ(※1)におけるフローとストック(※2)の関係

2017年11月

10月26日、八王子市にある「いちょう企画」という事業体を見学して参りました。この会社は古本の販売を主な収益事業として、自閉症スペクトラムや発達障がいを持つ引きこもりの人等の就労移行事業と就労継続支援B型事業の多機能型事業所を運営しているソーシャルファーム(※3)です。この事業体の代表取締役である松坂昌司氏は独特の経済哲学を持っており、障がい者の社会参加と自立を目指したユニークな活動を行なっております。

いちょう企画は、八王子駅から徒歩10分程の事務所や商店などがあるビジネス街にあります。同社の5事業所がテナントビルに入っており、20万冊の蔵書を抱え充実した活動と事業所運営行なっておりました。ここには障がいのある人にあった仕事があり、障がいの重い人は、地域の住宅を回ってポスティングを行なったり、古本の回収にドライブ兼ねて定期的に外出し地域社会との接点を持って働いています。古書は、地域社会からの無償提供を受けて、ここで働く障がいのある人たちが、仕分け、分類・台帳への登録、本棚へ収納・展示、インターネットにアップ、売り上げ集計作業等を行なっています。松坂氏は、コミック誌や文庫本など市場で売れる古本は、直接販売もするが古本販売のブックオフにて売りさばいていると言います。いちょう企画の売りは、余り売れない専門書や業界で制作した限定本や古文書など希少価値の高い古本をストックし、売れるのを待つという手法にあります。この売れそうもない古書こそ利益率が高く、利用者の工賃獲得に大きく貢献していると言います。この売り上げが何と毎月20万円近くなるそうです。

また、松坂氏は、20万冊の古本保管場所をうまく構造化して、引きこもりの発達障がい者や自閉症スペクトラムで刺激に弱い人などが一人静かに過ごせる空間を提供しています。私たちは、もっと発想を豊かに障がい者一人ひとりにあった職業や構造化された環境・空間を提供すべきではないかということを学びました。
社会との接点や自立への足がかりも少ない障がいのある人(マイノリティ)などにとって、今の職業構造への一種の挑戦とも言えます。ストックを回復した日本にとって、「これから重視すべきはフローを増やすことではなく、ストックを維持することだ」と松坂氏は言います。「日々消費する商品作りや仕事に追われる職業ではなく、穏やかでゆるやかに働ける障がい者の職場作りをめざしたい。この古本販売は障がいのある人にとても向いている仕事です」


※1 マイノリティとは社会的少数者または、社会的少数集団、社会的少数派を言い、その社会の権力関係において、その属性が少数派に位置する者の立場やその集団を指します。数としては少数でなくても、差別や社会的構造などにより弱い立場に置かれる集団を「マイノリティ」とする定義もあります。たとえば、20世紀初頭のアメリカ合衆国南部の黒人のように、社会における参加等の機会が著しく制限された層を指すこともあります(参照:ウィキペディア)。私どもは、障がい者・高齢者・子ども・病人をマイノリティと表現します。

※2 フロー(英: Flow)とは一定期間内に流れた量を言い、ストック(英: Stock)とは、ある一時点において貯蔵されている量を言います。ストックの変化量がフローにあたるという関係にあります。たとえばダムに貯まっている水量がストック、これに対してダムから流出したり流入したりする水量がフローにあたります。経済学的にいうと、フローとは一定期間で新たにつくり出された付加価値の合計のことを指します。一方、ストックとは、住宅総戸数、自動車の保有台数、預金残高など、経済財の存在量のことを言います。戦後、日本は焼け野原になり、ストックが極端に不足しました。このストックを充実させるために、1年に消費、減価償却される分を上回る量で、フローを急速に増やす努力をしました。これが、戦後、日本がとり続けた経済政策であり、高度経済成長の実態でした。1970年代には、戦争で失われた住宅、道路、鉄道などの社会ストックも回復し、日本は世界第2位(現在では第3位)の経済大国になりました。反面、豊かな自然環境は失われ、公害問題が発生し、狭い家にモノがあふれ、人々は仕事に追われて、生活を楽しむ余裕を失いました。大量の消費財産業構造に依存する時代は終わり、これから重視すべきはフローを増やすことではなく、ストックを維持し、その質を高めることではないでしょうか。

※3 ソーシャルファームとは身体・精神・知的障がい者や労働市場で不利な立場にある人々のために、雇用の機会を提供することを目的とした、民間の社会的企業のことです(ヨーロッパから始まった運動)。原則として政府・自治体からの援助・補助を受けず、健常者も参加するこの企業は、利益を事業に再投資する形で社会的目的を達成し、ハンディのある方々の雇用創出と、社会的自立を促し、地域コミュニティへの参加・統合、すなわち「ソーシャルインクルージョン」を目指します。(参照:いちょう企画資料)

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